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DAILY OKAPPA

ただの主婦の雑記帳

犬がいた日

http://www.flickr.com/photos/120617663@N04/13217824295

photo by RonjaV

スーパーを出たところに犬がいた。

CMで人気の北海道犬のような白い犬だ。しかし、そばの実のような三角の瞳とほっそりとした四肢は北道犬のものではない。後で調べてみたらそれは紀州犬らしかった。

紀州犬は私の真正面に真っ直ぐに立っていた。犬がよくするように口から舌をのぞかせて「ハァハァ」したり、しっぽをせわしなく振り回したりすることもなく、口を結び真面目くさった顔をしていた。私は犬に向かって眉を引き上げ、「おっ」というふうに目配せしたが、犬のほうでは私のことなど眼中にないようだった。

私はそのまま並びのドラッグストアへ行った。特売のラップを買って店を出るとき、今度は紀州犬が飼い主と並んで駅の方へ向かうのが見えた。連れられているというよりは自らの意志で歩んでいる風情の後ろ姿であった。リードがなくてもあの犬はどこへも行かないだろう。

☆ ☆ ☆

子供の頃、3、4年犬を飼っていた時期がある。

犬が来たとき私は4歳だった。だたの雑種犬だ。もらったときは子犬だったが、汁かけごはんを食べてみるみる成長し、あっと言う間に背中の黒くないシェパード風の成犬になった。

子犬じゃなくなると私は興味を失った。世話は母ときょうだいがしていたので、私はあまり犬とかかわらなかった。犬は家の正面の向かって右側に置かれた粗末な小屋につながれ、私が出入りするたびによく吠えた。私は犬が怖かった。

犬に触ることができないのは家の中で私だけだった。犬はたまにリードをどうにかして脱走するほど元気いっぱいで、給食で残ったパンを投げ与えるとジャンピングキャッチするのがきょうだいのお気に入りだった。

母はエサをくれる人、父ときょうだいはときどき遊んでくれる人。犬は私をどのように認識していただろう。

☆ ☆ ☆

休日だった。

朝食を食べ終えた私はふらりと外へ出た。水たまりを飛び越えたり、草むらを意味もなくジグザグに走るなどして子供らしく遊んでいた。

ふと顔をあげると、視線の先に犬がいた。

数十メートル離れたところにいた犬は、私を見つけいちもくさんに駆け寄ってきた。リリースされていたのだ。

「ああああああああああーーーーーーー」とか言いながら

私は大急ぎで30メートル先の家をめざした。犬がすぐ後ろに迫っているのを感じたが、振り返っている余裕はない。大急ぎで裏庭の窓から家に滑り込み、ガラス戸をぴしゃりと閉めた。

犬は窓の数メートル手前で立ち止まった。「どうしようかな」と少し考えた後、トコトコと近づいてきた。

私は窓に鍵をかけたうえに、全体重をかけて戸口をぴったりと押さえた。犬が前脚でカリカリとガラスをひっ掻いた。少しだけ可哀そうだと思ったが、やはり圧倒的に怖かった。

まもなく父が戻ってきて犬をつないだ。犬にリードを切られたので新しいものを買いに行っていたという。少しの間、犬が放たれたくらいで誰も文句を言わない大昔のド田舎の話である。おとなしくつながれたところを見ると、わりと賢い犬だったのかもしれない。

☆ ☆ ☆

犬は短命だった。

親族の法事で何日か家を空け、帰ってみると犬はいなかった。世話をお願いした人によると、好物を与えても一切食べなくなったらしい。

犬は自分が捨てられたと思ったのかもしれない。

汁かけごはんばかり与えられ、大切に育てられたとは言い難い犬である。しかし、犬にはそんなところがある…のかもしれない。ちょっとわからない。

☆ ☆ ☆

犬は私を噛むつもりなどなかった。

だんだんとそんな当たり前のことが分かってくるわけだが、人間が大人になるのは犬の何十倍も遅く、私には動物を飼う資格がない。